ふくしま心のケアセンター3年間の活動報告
ふくしま心のケアセンター3年間の活動報告
ふくしま心のケアセンター
所長:昼田源四郎
はじめに
2011年3月11日、福島県ではマグニチュード9という巨大地震と、追い打ちをかけるように発生した巨大津波により、海沿いの市町村が甚大な被害を被った。さらに、海沿いに位置する東京電力福島第1原子力発電所が地震・津波により破壊され、人口密集地域でのメルトダウンという人類史上最悪の原発事故が起こった。
2011年度、発災後の住宅等の被害は、全壊15,113棟、半壊78,151棟、一部破損141,303棟で、合計で234,567棟にも及んだ。また床上浸水は1,061棟、床下浸水は351棟だった。公共の建物など非住家屋の被害は37,262棟で、被災は48市町村に及んだ。
2015年8月現在でもなお、福島原発は完全な冷温停止には至っておらず、不安定な状況が続いている。また2015年9月11日現在での福島県内の人的被害は、福島県発表では関連死、死亡届を含めると累計で3,790人、行方不明者は3人である(警察庁緊急災害警備本部発表では行方不明者は200人)。
子どもの放射線被ばくを避けるため、原発事故直後から多くの子育て世代の人々が県外に避難した。2015年8月現在でも、なお107,703人の方々が全国各地に避難を続けている。ピーク時(2013年6月:約164,000人)からは減少しているものの、県外避難した人々の7割弱が、今なお福島県に戻れずにいる。
2015年度現在、当センターが主な支援対象としている県内避難者は65,300人であり、そのうち当センターで相談支援をしている方々は実人数1,609人、延べ人数で6,164人である。なお、県外避難者に対しては、「ふくここライン」という電話相談で対応している。
Ⅰ.被災者支援
1.福島県内の被災状況(図1)
2013年度と2014年度の2年間で、最も多かったのは放射線量の高い地域からの強制退去で、2013年度は2,812人、2014年度は3,177人が自宅からの退去を余儀なくされた。次に多かったのは家屋の倒壊による退去で、2013年度は617人、2014年度は685人だった。家族の死亡・行方不明も多く、2013年度で269人(6.1%)、2014年度で262人(3.7%)だった。
図1 県内の被災状況(2013~2014年度)
2.相談支援 (図2)
当センターが相談支援活動を実施した対象人数(延べ人数;以下同様)を年度毎にみると、2012年度8,464人(月平均:705.3人)、2013年度5,566人(月平均:463.8人)、2014年度6,164人(月平均:513.7人)だった。
相談支援をおこなった実人数は2013年度が1,386人で、2014年度が1,609人と前年度比で223人増となっている。これは県中方部といわき方部で住民に加え、「支援者支援」として自治体職員などの相談支援を実施したためである。
相談支援を方法別にみると、訪問が第1位で2012年度7,377人(87.2%)、2013年度4,150人(74.6 %)、2014年度4,345人(70.5%)である。当センターはアウトリーチを中心に活動しているため、訪問が多くなっている。
第2位は電話相談で、2012年度547人(6.5%)、2013年度542人(9.7%)、2014年度772人(12.5%)と年度を追って増えている。福島では、福島第一原発事故のため、とりわけ子育て世代の方々が県外避難を強いられた。電話相談は、県外避難をしている方々への、相談支援の窓口として機能している。
集団活動の中での相談は2012年度370人(4.4%)、2013年度577人(10.4%)、2014年度186人(3.0%)と、2014年度は2012~2013年度と比較して減少している。一方、来所による相談は2012年度150人(1.8%)、2013年度205人(3.7%)、2014年度640人(10.4%)と、年度ごとに増加している。来所相談の増加は、被災者側のニーズが個別化してきていることと、そうした個別的ニーズに対応するため、各方部センターにプライバシーを保てる面接相談スペースを確保し、個別的な相談をしやすい環境を整えたことと県外におけるホールボディカウンター検査による内部被ばく検査の際に実施された相談会の開催によると思われる。
(なお、上記の相談支援の対象者数には「健康調査」は含まれていない。)
図2 相談支援
3.訪問場所 (図3)
訪問場所として、もっとも多かったのは仮設住宅への訪問だったが、2012年度は3,550人(46.2%)、2013年度は2,124人(38.2 %)、2014年度は1,426人(23.1%)と年々、件数・割合ともに減少している。同様に、民間の賃貸借上住宅への訪問も2012年度は2,385人(31.1%)と最も多かったが、その後2013年度には1,131人(20.3 %)、2014年度には1,426人(14.9%)と漸減している。
一方、自宅への訪問は2012年度854人(11.1%)、2013年度1,090人(19.6%)、2014年度1,378人(22.4%)と年々、件数が増加している。
訪問場所が仮設・借上住宅から自宅訪問へと移行しているのは、避難者の自宅への移住が進みつつあることによる。
図3 相談場所と相談件数
4.相談者と相談対象者
相談事を抱えたの当事者自身が自発的に、あるいは周囲に促されて相談に訪れたのは、2012年度2,220人(89.4%)、2013年度4,931人(88.6 %)、2014年度5,312人(86.2%)と高い割合を示している。
次いで家族だけが相談に来たケースが多く、2012年度241人(9.7%)、2013年度527人(9.5 %)、2014年度616人(10.0%)だった。
5. 性別および年齢別
1) 性別
相談者の性別では女性の割合がやや多く、年度ごとの女性の相談者数と割合は、2012年度(2012年11月~2013年3月)1,422人(57.3%)、2013年度3,121人(56.1%)、2014年度3,503人(56.8%)だった。
2) 年齢別
相談者を年齢別に見ると、思春期~成年期(16~64歳)からの相談が最も多く、2012年度(2012年11月~2013年3月)では1,230人(50.3%)、2013年度では3,085人(55.4%)、2014年度では3,930人(63.8%)だった。次いで多かったのは高齢者(65歳以上)からの相談で、2012年度(2012年11月~2013年3月)1,088人(44.6%)、2013年度2,092人(37.6%)、2014年度1,854人(30.1%)だった。
6.相談の内容(症状)(表1・図4)
相談の内容として、3年間の合計で1番多かったのは「身体症状」に関するもので計4,900件だった。年度別では2012年度1,413人(18.7%)、2013年度1,661人(22.3 %)、2014年度1,826人(20.3%)で、高い水準で推移している。
2番目に多かったのは「気分・情動に関する症状」の訴えで、2012年度859人(11.4%)、2013年度1,382人(18.5 %)、2014年度1,663人(18.5%)だった。
3番目に多かったのは「睡眠の問題」で、2012年度1,257人(16.6%)、2013年度858人(11.5 %)、2014年度953人(10.6%)だった。
4番目に多かったのは「不安症状」で、2012年度998人(13.2%)、2013年度642人(8.6 %)、2014年度874人(9.7%)だった。
以下、「飲酒の問題」が2012年度309人(4.1%)、2013年度284人(3.8 %)、2014年度404人(4.5%)、「行動上の問題」が2013年度353人(4.7 %)、2014年度624人(6.9%)だった。
以上をまとめると、相談者の多くが(10~20%)、急性期に発症した「身体症状」「気分・情動」「睡眠の問題」「不安症状」などが今なお解消せず、苦悩していることが分かるが、「飲酒の問題」は比較的少なかった。。
また「症状なし」という回答が2012年度762人(10.1%)、2013年度1,188人(15.9 %)、2014年度1,461人(16.2%)と、年度を追うごとに、やや増加傾向にある。
表1 相談の内容 (年度毎)
図4 相談の内容 (年度毎)
7.相談の背景(表2)
相談内容の背景にあると推測された、あるいは相談者により言語化された生活上の出来事を「相談の背景」として以下に列記する。
3年間の合計で1番に多かった相談は「健康上の問題」で、2012年度は1,330人(15.8%)、2013年度は3,282人(31.4 %)、2014年度は3,949人(30.5%)だった。
2番目は「居住環境の変化」を背景とする相談で、2012年度3,058人(36.2%)、2013年度2,808人(26.9 %)、2014年度2,581人(20.0%)と多かったが、年度毎に減少しつつある。
3番目に多かったのは「家族・家庭問題」を背景とする相談で、2012年度1,160人(13.7%)、2013年度1,227人(11.7 %)、2014年度1,952人(15.1%)だった。
以下、4番目に「失業・就労問題」2012年度528人(6.3%)、2013年度509人(4.9 %)、2014年度643人(5.0%)。5番目に「人間関係」2012年度238人(2.8%)、2013年度500人(4.8 %)、2014年度808人(6.2%)。6番目に「経済生活再建の問題」2012年度556人(6.6%)、2013年度420人(4.0%)、2014年度475人(3.7%)。7番目に「近親者の喪失」2012年度372人(4.4%)、2013年度514人(4.9 %)、2014年度425人(3.3%)の順だった。
「放射線」に関する相談は、2012年度106人(1.3%)、2013年度182人(1.7%)、2014年度368人(2.8%)で、それほど多くはなかった。
表2 相談の背景ごとの相談件数(年度別)
8.現在の治療状況
精神的な不調のため医療機関に受診している支援対象者に、任意で医師から伝えられた病名を教えてもらった結果が、以下の通りである(図5)。
1)病名別
病名別で一番多かったのは「精神病性障害」で、2012年度230人(36.2%)、2013年度784人(33.6 %)、2014年度985人(30.0%)だった。
2番目に多かったのは「気分障害」で、2012年度167人(26.3%)、2013年度629人(26.9%)、2014年度930人(28.3%)だった。
3番目は「神経症性障害、ストレス関連障害」で、2012年度51人(8.0%)、2013年度204人(8.7%)、2014年度508人(15.5%)である。
4番目は「物質常用障害」で、2012年度67人(2.0%)、2013年度244人(10.4%)、2014年度359人(10.9%)である。
図5に見るように、上記の1~4番目の障害をもつと診断された人たちが、年々大きく増加している。とりわけ「神経症性障害、ストレス関連障害」が、被災3年目に前年度比で約2倍に急増していることが注目される。
2)発症時期
「災害発生前より存在(診断歴あり)」は2012年度32人(5.7%)だったが、2013年度では1,418人(62.8 %)、2014年度では1,845人(57.9%)と年々、比率が高まった。「災害発生後に発症」した人も2012年度125人(22.4%)、2013年度674人(29.8 %)、2014年度1,142人(35.8%)と年々増加している。
図5 病名別内訳
9. 集団活動(図6)
仮設住宅等での集団活動は、避難生活を続けている住民たちが気軽に集まれる場を提供す
ることで、孤立を防ぐと共に、避難生活に伴う気分の落ち込みや廃用症候群(生活不活発病)の予防などを目的としている。血圧測定などの体調チェックから始まり、体を動かしたりお喋りをしたりなど、手軽に取り組め、かつ楽しめるプログラムが設定されている。
年度毎にみると図6のとおり、「開催回数」と「参加人数」は2012年度をピークに年々減少している。
図6 集団活動(年度毎)
10.市町村別の相談支援件数
当センターの相談支援の範囲は、県内36市町村と県外の1都10県に及んだ。
相談支援件数は2013年度と2014年度ともに、南相馬市が最も多かった。次に多かったのは相馬市であり、そのほとんどを相馬方部がおこなった。
原発事故現場に近い双葉郡8町村では2013年度に計2,595人、2014年度に計2,433人の相談支援をおこなった。双葉郡内での相談件数を多かった順に記載すると、浪江町、双葉町、富岡町、大熊町、広野町、葛尾村、川内村、楢葉町だった。その他の町村では、やはり放射線線量が高かった相馬郡の飯舘村、新地町での相談支援が多かった。
Ⅱ.支援者支援
1. 支援者支援~対象別
「地方公共団体・警察・学校・医療機関・福祉施設・国の出先機関」の職員などは、自身や家族が被災者でありながら被災住民の支援のために働いた。こうした支援者への支援(支援者支援)の件数は、2012年度364件(77.9%)、2013年度543件(77.5%)、2014年度969件(86.4%)と高い比率を占めた。
支援者支援の全体をみると2012年度467件、2013年度701件、2014年度1,122件と年々増加している。
図7 支援者支援~対象別
2 支援者への支援内容
「支援に関する指導・相談」件数は、2012年度33件、2013年度97件、2014年度202件と増加し、支援対象人数は2012年度125人、2013年度507人、2014年度488人だった。
支援者と共に行なった被災住民に関する「ケース会議」は2012年度75回、2013年度266回、2014年度297回、「健診支援件数」は2012年度27件、2013年度92件、2014年度115件と、年々増加している。
3 普及啓発活動
一般住民に対する普及啓発を目的とした年度ごとの講演会の開催回数と参加者数(総計)は、2012年度は61回(計517人)、2013年度は65回(計2,516人)、2014年度は50回(計1,849人)だった。
普及啓発のための教材配布件数は2012年度が196件、2013年度が306件、2014年度が578件と、年々増加している。
報道機関への対応件数は、2012年度22回、2013年度20回、2014年度23回だった。ホームページの管理・更新は2012年度36回、2013年度79回、2014年度21回実施した。
注)普及啓発に関しては講演会のみ2012年4月からの統計、その他は2012年11月からの統計。
Ⅲ まとめ
被災者支援の件数は2012年度をピークにして、その後はゆるやかに経過している。2012年度に支援件数が多かったのは、健康調査や全戸訪問等により、支援が必要な被災者の発見を急いだためである。
相談支援件数が2013年度と比較して、2014年度では11%増加している。これは当センターの活動が、行政職員や生活支援相談員の方々から地域住民へと、徐々に周知された結果と思われる。
相談方法としては、これまでアウトリーチを中心とする活動をしてきた。そのため各年度とも訪問による支援件数が第1位となっているが、年々、電話や来所による相談も増えつつある。訪問場所も、応急仮設住宅などの割合が減少し、相談者の自宅や各方部センターに用意した相談室の利用も増えている。
甚大な自然災害に原発事故という人災が加わった福島では、より複雑な喪失体験が長期化する恐れがある。福島での被災者支援は、県市町村と協力して地域・生活・心の再建を同時並行的に、長期的な視点で、ねばり強くおこなう必要がある。